健康コラム
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禁煙のススメ(4)
汐田総合病院院長 窪倉 孝道医師
「たばこ病」は国にも責任
以上述べてきたように、タバコの健康への害はたいへん大きく、はっきりしています。にもかかわらず、いまだに国民に広く販売され続けているのは、とても奇妙なことです。喫煙問題は、根本的には社会的な視点に立った解決が重要です。
たばこ対策の先進国では、自動販売機の設置は禁止されています。タバコを買うときには身分証明書を提示する、公共の場所は禁煙、広告の規制、「マイルド」など紛らわしい表記の禁止など、積極的な対策が打ち出されています。
それに対してわが国では、タバコが安価(イギリスの約三分の一)で、自動販売機が約六十万台もあり、未成年者も簡単にタバコを買えます。喫煙開始年齢の低下が心配されているときに、このような環境を放置しているのは矛盾しています。
若年からの喫煙は、肺がんや心筋梗塞の発生を増やすだけでなく、アルコールや覚醒剤の依存症への入り口にもなるとして問題になっています。健康増進法が施行されたものの、レストランや公民館など公共空間での喫煙にもなお寛容さが残り、喫煙対策において先進諸国に遅れをとっている印象は否めません。
国を挙げて「たばこ病」対策を
タバコ販売によって、国は二兆数千億円の税収を得ています。一方、タバコは、医療費その他で三~五兆円と試算される社会への経済的負担をもたらしています。「タバコに手を出すな」という認識を社会の隅々に定着させることが必要です。
現在、「たばこ病」に対する国の責任を問う裁判が争われています。
原告団は周囲の反対を押し切って喫煙を続け、「たばこ病」になってしまった自らの不明を恥じながらも、「自らの不明を恥じなければならない国民」があまりにも多すぎる、国のたばこ行政が無責任で、国民をたばこの害から守る責務をなおざりにしてきた不作為の責があるのではないかと問いかけています。国を挙げてたばこの害について真剣に考え、総合的な対策を立てる時期に来ていると感じます。
「暮らしとからだ」2005年11月付